厭世マニュアル 阿川せんり
それにしても、こんなにデビュー作にふさわしいデビュー作もない。 森見登美彦
どうも、川島はなぢです。
今回紹介するのは、阿川せんりさんの
厭世マニュアル
です。
こんな人に読んでほしいかも
- 薄暗い青春を送ってきた人
- 社会や周囲に対して不平不満がありすぎて脳みそが爆発しそうな人
- けれどそれを我慢している人
第6回野生時代フロンティア文学賞を受賞された阿川せんりさんの、このデビュー作。
まっさきに目に飛び込んでくるのが、タイトルの「厭世」という言葉。
(この世を嫌なものに思うこと。人生に価値がないと思うこと。的な意味の言葉であります)
王道的な青春物や純愛物なんかより、厭世的な考えや自分の弱さやマイナスな部分を形にして昇華した作品が好物の僕は、タイトルにひとめぼれをして購入したのですが、
読み終えた今、これはある意味で青春小説なのだと思っています。
常にマスクを付けて生活することで、他人の心と自分の心との間に鉄壁を築いてきた主人公。
言いたいことを言わないことで、
しかもそれを悟られないようにすることで、
自分の心を守ってしまう。
そんな人って、僕も含めてけっこういるんじゃないかと思います。
でも言いたいことを言わないでいると、
どんどん誤解されていく。
でも言いたいことを言い通して生き続けることも、難しい。
この葛藤に折り合いを付け、臨機応変に最適解を導き出せるようになったとき"青春"が終わるのだとしたら、
この小説は確かに"青春小説"なのだと思います。
この物語の主人公は
キスもしないし手も繋がないし恋もしません。
でもこれは青春小説なんです。
薄暗い青春を送ってきた人間にとって、反撃の狼煙をあげる一冊であり、救いの一冊なんです。
物語終盤に一気にたたみかけられ、スカッとした気分で読み終えられます。
ここまで読んで下さった方は、
薄暗い青春を捉えた灰色の風景が淡々と語られるマニアックな物語
を想像しましたか?笑
そんなことはないんです!
主人公目線で語られる一人称小説なのですが、
登場人物の多くはアダ名で語られ、
主人公も「口裂け女」を自称するなど、
自虐的でユーモラスな文体が、物語全体をポップに仕上げてくれています。
なので薄暗い青春を送ってきた人におすすめなんて書きましたが、だれが読んでも楽しめるとも思うのです。それが阿川せんりさんの、作家としての確かな実力なのでしょう!
まとめ
- 手も繋がないし恋もしない形の青春小説です。
- 「厭世的」というと堅苦しいですが、心に壁を作ってしまう主人公に、共感できる人は多いはず!
- 主人公のユーモラスな語り方が面白い!
最後まで読んでくれて、ありがとう。
ついでにどうぞ